エッセイ

Once in a life time

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WBCをMiamiに観に行っていた。準々決勝から決勝まで計4試合。

振り返るというよりは、余韻に浸っている。

日本でもアメリカでも、漫画を超えた展開と言われているけれど、野球には神様がいるのかもしれないと、思ってしまうような試合の数々だった。

舞台となったLoan Depot Parkは、Miami Marlinsの本拠地で、Miamiという土地柄、中南米、特にキューバ系やベネズエラの人たちが多く訪れていた。

少し試合を振り返りたい。

3/18準々決勝のベネズエラ対アメリカは、どちらのチームもMLBのオールスター級を並べたラインアップ。球場は、完全にベネズエラのホーム球場という雰囲気で、一球ごとにベネズエラサポーターの歓声が鳴り響いた。8回まで、アメリカは2点リードされていたけれど、Trea Turnerの満塁ホームランで逆転。勢いのつく勝ち方だった。今シリーズ、Turnerは絶好調で、さほど甘く感じない球でも、ことごとく、スタンドイン。守備面でもTurnerとTim Andersonの二遊間を見ることができるだけでも幸せだ。

3/19準決勝1試合目のキューバ対アメリカの試合は、アメリカが実力の違いを見せつけて、大差で勝利。この試合は、スタンドの中でも、キューバの政治的独立性を求めるボードが掲げられたり、興奮したファンが、3回もフィールドに乱入するなど、異様な雰囲気になり、試合展開にも水を差すことに。Miamiを決勝トーナメントの地に選んだことの是非が問われる展開になった。試合では、巨人に所属していたMiles Mikolasが2番手として投げて、切れのあるフォーシームとカーブをうまく使った緩急をつけたピッチングでキューバ打線を寄せ付けなかった。

3/20の日本対メキシコ戦は、野球というものの面白さが詰まった試合に。僕が見た野球の試合の中で、No1のゲームだ。この試合は、あまり語らずとも、観ている方が多いので、よいかもしれない。4回から、決勝の先発と目されていた山本由伸が出てきたのには驚いた。佐々木朗希ほどの爆発的なスピードはないものの、これが日本No1ピッチャーだという姿を見せてくれた。それでも、やはりMLBのバッターたちは、対応してくることにも、怖さとプライドを感じた。この試合、メキシコのレフトを守るRandy Arozarenaにホームラン級の打球や、いい場面で飛んで行った打球を捕られ、彼が人気者であることもあり、球場全体がメキシコのムードに。劣勢の中で、追いついては、突き放される展開。試合展開も日本にとっては、重苦しく、それが最後の村上宗隆の逆転打の感動を助長させた。

この試合を見終わって、本当は、翌日、NYに帰る予定だったのだけれど、興奮収まりきらず、急遽、決勝のチケットも購入した。日本代表だけではなく、どこの国の代表も、気合が入っていて、プレーオフシーズンさながらの仕上がりだったように思う。各国の選手が、真剣に楽しむという姿を見せてくれていた。本当に、少年野球に戻ったかのように、1プレー1プレーに思いを込めて、そして、楽しむ。それが見ているものを感動させることになった。

決勝は、日本対アメリカ。予選ラウンドで切れ味鋭い球を投げていた今永昇太を先発に持ってきたけれど、アメリカの打線は相変わらず好調で、ポンポンとヒットを打ち、Turnerはまたもホームラン。この試合もそうだけれど、僕は、ショートを守る源田壮亮のプレーにずっと注目していた。彼は、予選リーグで、右手小指を骨折して、準決勝から、スタメンに復帰。イニング前のボール回しや守備練習でも、決して100%の力で投げられていないのを感じた。ただ、準決勝、決勝と源田を含めて日本はエラーなし。決勝リーグから、Loan Depotに入ったわけだけれど、室内球場ということで、比較的日本の球場に近いことが奏功したのかもしれない。源田のもとにも、強い送球を要求される打球が飛んでくることがあまりなくて、本当に良かった。彼がそこにいてくれるだけで、いいのだ。

日本代表にすっかりなじんだLars Nootbaarもマークが厳しくなったのか、準決勝からは当たりが出ていなかったけれど、決勝の内野ゴロの間の1点は、値千金だったと思う。三振を狙ってきている球をうまく、ゴロにして、1点を取った。日本は、この大会、どちらかというといい場面でホームランや長打が出て、MLBのピッチャーの動く球への対応や、従来の力不足などの批判を一蹴できる実力を兼ね備えてきたと思うけれど、大事なところで、泥臭く1点を取ることができる技術も見逃せない。それは、準決勝の周東右京の速すぎて、見逃してしまうぐらいの走塁もそうだったけれど。実際、スタジアムにいると、打球を追いかけてしまって、彼がどのような走塁をしていたか、つぶさに見ることすらできなかった。

話は戻って、決勝の最後。ダルビッシュ有からの大谷翔平への継投、そして、大谷翔平とMike Troutとの対決は日本の野球の歴史に刻まれるものになったと思う。一連の流れが、観ていても現実感がなくて、これは夢なのかと思わずにいられなかった。大谷が9回先頭バッターのJeff McNeilに四球を出したときに、Mcneilがベンチに向かって吠えていたことが、僕の中では印象に残っている。MLBの選手が、四球を選んでチームを鼓舞する場面を見たことがなかった。

スポーツは、最後、どうやったって、勝ち負けが着く。今回は日本が勝った。僕は、中南米の観客が多い球場に行けて、とても良かったと思っている。それは、勝負が決した後、勝っても負けても、皆こう声をかけてくれるからだ。

What a Great game!

そして、野球は、どこまで行ってもゲームである。勝てば、もてはやされ、負ければ批判やバッシングにさらされることになる代表チームではあるけれど、それはあくまで結果であり、今回のように真剣に楽しんでいる選手と、それを手に汗握りながら見守るファンがいれば、とどのつまり、結果がどうであっても素晴らしいものに変わりはないのだと思う。そういうことを感じさせてくれた大会だった。

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