先日、Houstonに行ったときに、日本人の方が集まる会でふとした話の流れから、原田マハの『楽園のカンヴァス』の話になった。その方はかっこいいおじさんという表現がぴったりの方で、僕も同じ本を読んでいたことが嬉しくなる瞬間だった。
日本語の小説を紙の本で読みたいという衝動を抑えることができずに、Bryant Parkの脇にあるKinokuniya New Yorkに向かった。
正直、これと決めた本を狙って行ったわけではないのだが、原田マハの『常設展示室』が目に留まり、この間Houstonでも話題に出ていたし、ちょうどいいなと思って、購入した。実は、日本で買えば550円なのだけれど、こちらでは$10以上するので、自分自身を納得させる理由が必要だった。
この本を僕は通勤のバスの中で読んでいた。美術館の常設展示室に展示されている絵画にまつわる6つの短編からなる小説だ。
僕は、この本を読んでいる最中、不覚にも泣きそうになった。実際に泣いたわけではないのだけれど、涙を流しそうな感情を抑えずに読むことができない。そして、大切な人たちに連絡をとろうと心を動かされる。
俳優の上白石萌音が解説を書いていて、その中で、この本は「出会い」をテーマにしていると紹介している。
僕は、それを否定するつもりはないのだけれど、この本を読んで僕がテーマとして強く感じたのは、「人の死」や、大切な人と別れて暮らす「寂しさ」だ。もし皆さんがこの本を読んだら、どのようなテーマ性を感じたか、教えてもらいたい。
僕は身近な人を亡くした経験から、人の死をテーマにする小説を読むことを避けてきた。今回の『常設展示室』も人の死を表立ってテーマにしているわけではないのかもしれないのだけれど、そのように読めてしまう。
そういう理由もあり、僕はこの本を一気に読むことはできない。ページをめくる手を止めながら、人の死や別れに思いをはせてしまう。もしかしたら、またそのようなことが近いうちに起きてしまうのではないかと胸騒ぎがしてしまう。
それでも、なお、僕はこの文章を今、わざわざ書いているくらいに、この本が好きである。それは、6つの短編に出てくる絵画が、それぞれの登場人物にとって、希望を与える文脈で描かれているからだろう。
そして、上白石萌音が書いているように、美術館に足を運んで、絵画の魅力に触れようという気にさせてくれる。
メトロポリタン美術館に行く前に、この本に出逢えてよかった。そう思っている。