エッセイ

春が来たから

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春になったと感じるくらいの気温になってきた。

春は人を陽気にさせ、フレンドリーな気分にさせる。でも、すべての人が善人とは限らない。

先日、Bryant Parkの近くまでちょっとした買い物をしに出掛けた。春が来たから、ちょっと足を伸ばしてみようと思った。

お目当てのものを半分だったけど見つけた帰りに、MadisonAveからバスに乗ろうと歩いていた。

41stとMadisonの角のところで、車の運転席から男性が窓を下ろして通行人と話していた。道か行き先を聴いているのだろう。通行人は、俺は知らないと言って去っていった。

僕も道案内をするつもりはなかったのだけれど、何か助けになれればとは思って、車が近づいてくるのを受け容れていた。

運転手と話すと、PenStationではなく近くのPetro Stationを探しているというので、この辺にガソリンスタンドはないし、あったとしても知らないと伝えた。

車の窓をおろして話されたので、こちらも前かがみにならざるを得ない。

ドバイから来たらしい観光客の男は、何を思ったか、18金でできているのだと言って、金の指輪を渡してきた。後部座席には幼い子供を抱えた奥さんがいるのだと後ろの窓も下ろして説明してくる。雲行きが怪しくなってきた。

この18金の指輪を渡すから、現金をよこせと言ってくる。

あいにく現金を持っていないし、そもそも18金の指輪は要らないので、助手席に置き返す。

運転席の男性は、近くにあったChaseBankを指さして、あそこで現金を引き出せるだろうと言ってくる。

あいにく、僕はChaseの口座を持っていない。

男は残念そうに車を走らせて去っていった。

Madisonからバスに乗った僕は、このやり取りを振り返ってみる。

指輪を返したときに、逆上されて撃たれでもしたら笑えなかったなと最悪の状況を想像する。

春だから、陽気な気分になって人との距離が近くなる気もするけれど、

それは近しい人とだけにしておこう。

何事もなかったことに幸せを感じたので、77thくらいでバスを降りてジーンズを買った。

こんなちょっとした出来事があった日に買ったジーンズということを覚えておきたい。

そう記憶にとどめないときっと忘れてしまうくらいの話ではある。

僕の日常はこういうことの積み重ねでできている。

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